[soudan 06220] 相続税法基本通達11の2-10のいわゆる「圧縮計算」の可否
2024年10月15日

税務相互相談会の皆さん

下記について教えて下さい。


【税  目】


相続税・贈与含む(井上幹康税理士)


【対象顧客】


個人


【前  提】


相続人:配偶者(妻)、長男、長女の3名。


遺産分割については、法定相続分が妻8分の4、長男8分の2、長女8分の2のところ、

生命保険金を除いた時価ベースでおおむね妻8分の3、長男8分の2、長女8分の3になるように分割しています。


そして、預金解約事務手続き等の便宜上、

遺産分割協議書では現預金254の全てを妻が取得し、代償金として長男に144、長女に110支払うこととしています。


つまり、実態としては現預金254は長男が144、長女が110

取得することになるのですが、名目上遺産分割協議書では代償分割の形式を取っています。


(遺産分割協議書の内容)

配偶者

不動産 時価410 相続税評価117

現預金 254

有価証券 311

生命保険金 5

その他 50

代償金 ▲254

計 時価ベース776 相続税評価ベース483


長男

不動産 時価22 相続税評価6

現預金 ゼロ

有価証券 221

生命保険金 152

その他 32

代償金 144

計 時価ベース571 相続税評価ベース555


長女

不動産 時価44 相続税評価13

現預金 ゼロ

有価証券 682

生命保険金 152

その他 6

代償金 110

計 時価ベース994 相続税評価ベース963



上記の通り、代償分割の形にはなっていますが、

妻:現預金254、代償金▲254

長男:代償金144

長女:代償金110

とあるのは


実態としては次のようになります。

妻:現預金ゼロ

長男:現預金144

長女:現預金110


【質  問】


本事例において、相続税法基本通達11の2-10の但し書きのいわゆる「圧縮計算」を用いることは可能なのでしょうか。



但し書きの(2)を適用するには、次のような要件が

あります。


・代償分割の対象となった財産が特定されている

 →遺産分割協議書上では、特定の不動産に対しての代償金という表記ではなく、妻(配偶者)が取得する

  全ての財産(不動産、預貯金、有価証券、未収入金等)を第1条にて列挙し、

  第4条にて「第1条記載の財産を取得する代償として、長男と長女に対して代償金を〇〇円支払う」という

  表記になっています。

 この表記でも、「財産が特定されている」といえるのでしょうか。


・代償分割の対象となった財産が通常の取引価額をもとに決定されている

 →不動産について、時価ベースで計算はしていますが、不動産鑑定士による評価ではなく、

  不動産会社による査定金額の2社平均値を使用しています。

  通達では、通常の取引価額は例えば不動産鑑定士等の評価額と記されていますが、

  不動産会社の査定額でも、「通常の取引価額」と扱うことは可能なのでしょうか。



また、但し書きの(1)については、相続税法基本通達逐条解説にて、

「配偶者に対する相続税額の軽減制度を利用して相続税の負担を不当に減少させることを目的として

 不合理な方法によって代償財産の価額を計算していると認められるような場合には、原則によることになる」と記載されています。


本事例は、実態としては代償分割をする必要はなく現物分割が可能であるが、事務手続きの便宜上代償分割の形を取ったにすぎず、

もし但し書きの(1)を適用すると、妻(配偶者)の相続財産が増加し、長男と長女の相続財産が減少します。

そして妻は配偶者の税額軽減により、相続財産が増加しても相続税額は増加せず、一方長男と長女の相続税額は減少します。


これは逐条解説に記載の、「配偶者に対する税額軽減の利用して相続税を不当に減少させることを目的として」に該当するのではないかと思っています。


もし本事例において圧縮計算が認められるなら、実態は現物分割であっても、代償分割の形を表面上取ることで

相続税額を簡単に減少させることができてしまうため、但し書きの(1)の適用は認められないと考えますがいかがでしょうか。


また、但し書き(2)の要件を仮に満たしていたとしても、本通達の意図と異なる、名目的な代償分割であるから、

圧縮計算は認められないと考えますがいかがでしょうか。



相続税法基本通達逐条解説の、通達11の2-10の解説の冒頭では、次のように代償分割が定義づけされています。

「代償分割は、共同相続人等のうちのあるものに具体的相続分を超えて相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した者に

 相続財産を現物で取得しない(あるいは相続財産の一部のついてだけ現物分割が行われ、

 その結果、具体的相続分に満たない相続財産しか取得しない)他の共同相続人等に対してその具体的相続分(あるいは不足分)に

 相当する債務を負担させる遺産分割の方法である。」



本件においては名目上代償分割の形を取っているだけで、実態は現物分割と考えられます。

このような場合においても相続税法基本通達11の2-10の但し書きの規定を用いることができるとしたら、

通達の意図とは異なることになり、現物分割を形だけ代償分割に見せれば簡単に相続税を減少させることができるため、

仮に但し書き(1)(2)の要件をクリアしていたとしても、そもそも適用そのものが認められないのではないかと考えております。


【参考条文・通達・URL等】


相続税法基本通達11の2-10




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